大腸癌のスクリーニング検査として便潜血検査が広く用いられていますが、前癌病変や粘膜内癌の検出性能が低く、便潜血検査で陽性になったときはすでに進行癌のことが多いという問題があります。この課題解決のため、山口大学医学部医学科4回生 井上裕加里さん、大学院医学系研究科 臨床検査・腫瘍学講座 石黒旭代助教らは、昨年度の山口大学医学部のカリキュラムである自己開発コースにおいて、前癌病変や粘膜内癌の検査性能を大幅に向上させる予測式(FAMSインデックス)を考案しました。
このFAMSインデックスは、便潜血検査、便DNA検査、年齢の3つの因子からなります。前癌病変や粘膜内癌に対する検査感度は、この予測式では56.4%でした。一方で、便潜血検査では29.1%しかありませんでした。すなわち、FAMSインデックスにより便潜血検査の約2倍の検査感度を達成したことになります(なお、比較のために特異度をどちらも約90%に揃えています)。これは世界で初めての発見です。今後、このFAMSインデックスが大腸の前癌病変や粘膜内癌の新たな検査となることが大いに期待されます。
なお、アメリカでは類似の検査として「コロガード」という大腸癌診断薬があります。このコロガードは便DNA検査のために全便検体(200グラム前後)が必要ですが、私どもの方法ではピーナツ大(0.2グラム)の便で解析できます。わずかな量の便検体で済むことから、衛生面、コスト面でも大きな優位性があります。
【発表論文の情報】
・論文名:A novel index combining fecal immunochemical test, DNA test, and
age improves detection of advanced colorectal adenoma(メチル化SSTをターゲットとした便DNAテストは大腸進行腺腫の検出に有用である)
・著者:井上裕加里、石黒旭代、末廣 寛、國宗勇希、山岡祐子、橋本真一、中村克彦、五嶋敦史、浜辺功一、松本俊彦、友近 忍、檜垣真吾、藤井郁英、鈴木千衣子、古賀道子、堤武也、林 阿英、松原康朗、四柳 宏、永野浩昭、山本直樹、坂井田 功、高見太郎、西岡光昭、山﨑隆弘
・掲載誌:Cancer Science
・掲載日:2024年8月24日